<トップダウンではない、第三者の視点を取り入れた店舗経営>
―――理容室スタッフ向けに片づけ研修をしようとしたきっかけをお聞かせください。
店舗改装や広告、スタッフの意見を取り入れた店舗作りなど、これまでにもずいぶん試行錯誤してきました。
けれども、いくら外側を綺麗にしても、時間が経つと汚れていく。綺麗を保つにはやはりスタッフの日々の努力が必要なんです。
しかしスタッフにとってはお客様へのサービスや技術の向上など、ほかにも考えることがあり過ぎて、お店の整理整頓の優先順位はどうしても下がってしまうんです。
私が5S の話などをしても、効果があるのは、2,3日だけ。また、片づけの得意不得意には個人差があることも問題でした。
これを解消するためにマニュアルを導入するというのも一つの方法ですが、理容室のスタッフというのは職人です。マニュアルや押しつけを極度に嫌うという性質があります。
マネージャーの私が上から一方的に話すのではなく、第三者の介入が必要だと思いました。
そんな時に出会ったのが、くらしと片づけ研究所の代表理事遠藤さんでした。片づけの講義と実際に片づけをする実技の時間を入れた研修を定期的にお願いすることになりました。
<これまでの常識を疑い、新しい視点を持ち込むことによる業務効率の改善>
―――片づけ研修をして良かったこと、変化したことなどを教えてください。
一番の変化は、ワゴンを撤去したことです。
理容室や美容室をご利用になると目にされると 思いますが、スタッフが作業する傍に道具や備品などを入れたワゴンがありますよね。
それ ぞれが使いやすいように色々入れているのですが、本当に必要なのか?と思うものが入っ ていることもあり、乱雑さゆえに美観を損なう要因にもなっていました。また、店内の動線を塞ぐという意味でも、課題でした。
でも、あるのが当たり前と長年思っているものをなくすことは難しい。それを、時間をかけて研修を受けてもらったことで、とうとうワゴンを撤去しました。今や、スタッフたちはかつてワゴンがあったことなど忘れたかのように仕事をしていますし、店内もスッキリしました。
売り上げも順調に伸びています。
コロナ禍に値上げもしたのですが、影響はありませんでした。片づけで店舗を整えるということはお客様の安心感につながっているのだと思います。
特にうちのメインのお客様は40~50代の男性です。社会人としても重要な位置につかれている方が多いので、整った店内の様子を見てサービス全体への信頼も持ってくださっているのだと思います。
おかげさまで定着率も高いです。
<片づけ研修導入のヒント>
―――片づけ研修を導入するにあたって、スタッフの反応はどうでしたか?
それまでにもいろいろ取り組みをやっていたので、最初は「また始まった」みたいに思われていたと思います(笑)。
でも、これは大切な業務の一環であることを理解してもらうため、就業時間内に行い、その分の給料はもちろん支払っています。
また、私が居るとスタッフも率直な意見を出しづらいでしょうから、ほとんど研修には同席しませんでした。
研修の成果を逐一チェックすることもせず、長い目で見ることに徹しました。
そのせいか、スタッフ同士の距離感が縮まり、これまでは他のスタッフのことに口出しするのははばかられるという雰囲気でしたが、片づけの共通認識が出来上がってきたことでアドバイスや意見交換もしやすくなっているようです。
<ワークショップ形式の研修で、自律的な店舗運営に>
―――くらしと片づけ研究所の研修の特徴を一言で言うと?
コーチング的、と言えますね。「ああしましょう、こうしましょう」「これはこうあるべき」 と言った講師からの押し付けが一切無いところが良いです。
先にも話しましたが、職人はそういう「型にはめられること」を最も嫌います。
経営的に見ても、ルールの押し付けは長続きしないとよく分かっています。
そういう意味では、スタッフたちが自ら考え、自分たちの 行動指針を作り共有していく、という店舗運営に大切なプロセスを研修によってうまく作り出していただきました。
―――今後、片づけ研修を検討される経営者様へのアドバイスをお願いします。
「片づけ」は一朝一夕で出来るようになるものではありません。継続が何よりも大事です。
経営者として、効率よく短期で成果を出さなければいけないことも多いですが、片づけに関しては、根気よく、たとえ成果が見えにくくても続けていくことだと思います。
そうすることで、いつの日かそのお店の文化、常識になっていくのだと思います。